HPをリニューアルするにあたり、アーティストインタビューを掲載致します。まず第1回は、比嘉洸太さん(第12回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門第2位)にお聞きしました。とても貴重なお話しを伺うことが出来ました。
嶋田
久しぶりでございます。今年の「日本・ルーマニア文化交流コンサート」にもご出演ありがとうございます。
比嘉
こちらこそ、いつも素晴らしい機会を与えて頂きありがとうございます。
また、本日もこのような機会を頂き、嬉しく思っています。
嶋田
こちらこそありがとうございます。早速ですが、「ルーマニア国際音楽コンクール」を受けたきっかけを教えて頂きたいのですが。
比嘉
僕が受けたのは今から7年ほど前、第12回のコンクールなのですが、実はこのコンクールの存在は第2回から知っていました。
というのも僕の出身は沖縄県で、第2回ルーマニア国際音楽コンクールのグランプリは沖縄県立芸術大学在学中の榎本玲奈さんだったのです。
確か僕が中学か高校1年生の頃だったと思いますが、沖縄の新聞に榎本玲奈さんとルーマニア国際音楽コンクールの記事が載っていたのを今でも鮮明に覚えています。
嶋田
今年19回目のコンクールが終了しましたので、なんとそれから17年、比嘉さんが受けた12回でも10年という月日が流れているのですね。でも、そこから12回まで参加を待っていたのは何か理由があるのですか?
比嘉
実は音楽大学を受験する時期から、手が思うように動かなくなり、練習が足りないのでは、とさらに練習を積んでいました。
それでもなんとか音楽大学に合格することができたのですが、入学後は更に症状が進んで苦しい状態で音楽大学時代を過ごしていました。
病名が分かってからは奏法を見直す事で演奏に対するストレスを少なくし、大学4年頃からやっと改善されてきた。という状況です。
嶋田
それは大変な学生時代でしたね。
比嘉
スケールがまず初めに弾けなくなり、次にアルページオが弾けなくなり、その次は和音と、絶望的な学生生活を送ったので、まさか卒業後に「ルーマニア国際音楽コンクール」を受けて受賞させて頂くなんてとても思わなかったです。
嶋田
完治されたのですか?
比嘉
はい、今はもう大丈夫です。が、身体のメンテナンスには気を遣うようになりました。
ピアノは座ったままの姿勢で練習していることが多いので、身体に負担がかかりやすいです。無理のない体の動きを常に意識していますし、その大切さを感じています。
嶋田
身体のメンテナンスは大事ですね。
現在の活動について
嶋田
続いて現在の活動をお聞きします。
比嘉
現在は演奏と教育、その二つに軸を置いていますね。教育活動にも楽しさや豊かさを感じ始めています。その中で年数回のコンサートに集中して向かう。そういうスタイルが僕には向いているように思います。
嶋田
生徒さんはお子さんですか?
比嘉
4歳から受験生まで、アマチュアの方や専門家もいらっしゃいます。貴協会の事務所近くのインターナショナルスクールにも週1回、ピアノ講師として来ています。
嶋田
そうだったのですか。それではもっと事務所に遊びに来てください(笑)
ルーマニア文化交流コンサート
嶋田
最初にもご紹介させて頂きましたが、2021年から日本とルーマニアの文化交流コンサートに3年連続ご出演頂いてありがとうございます。どのような魅力で参加してくださっていますか?
比嘉
ありがたいのは、いつも素晴らしい会場をご用意してくださっていることです。
また、ここ数年は僕自身がずっと惹かれていた20世紀の作品を演奏することに重きをおいており、僕がプログラムで作り出したい世界を貴協会のコンサートは快く受け入れて下さる、ということがとても有難いです。
嶋田
ルーマニアが世界に誇る作曲家、ジョルジェ・エネスクやルーマニア出身のジェルジュ・クルターグの作品などを演奏して頂き、日本の皆さまに聴いて頂けることが大変嬉しく思っています。
比嘉
観客の皆様にとってもなかなか馴染みのない曲達ですので、もっと分かりやすく有名な作品を演奏して頂けませんか?などと言われる事が多いのです(笑)。
そのような中で自分の好きな作品を存分に演奏出来るこのコンサートはとても嬉しく、プログラムを組む段階からワクワクしますね。
嶋田
ありがとうございます。ルーマニア人作曲家の曲がコアな人のものだけではなく、広く一般の方に聴いて頂けると嬉しいですね。
比嘉
演奏家も聴衆も共に成長していく姿勢が必要ですね。
ルーマニア人作曲家はどんな存在?
嶋田
そうですね。では、比嘉さんにとってルーマニア人作曲家はどんな存在なのですか?
比嘉
エネスクは素晴らしい作曲家だと思っています。が、日本では多く演奏されていないのが残念です。演奏が少ない理由として挙げられるのは、まず演奏が難しいということ。そして日本では楽譜が手に入りにくいこと、曲が難解なこと、東欧の音楽の響きに慣れていないことなどいくつかあると思います。
嶋田
そうですね。そのためにも入賞者の皆さまにドンドン演奏して欲しいです。
比嘉
そういう僕もエネスクを知ったのは、コンクールを受けてからです。
嶋田
そうだったのですね。エネスクを紹介して20年。少しは日本の皆さまに浸透して来ているようです。
比嘉
昨年はピアノソナタ第1番を演奏させて頂きました。他にも彼のピアノ曲はたくさんあるので、ピアノソナタ第3番や組曲など、、もちろん演奏していきたいですが、ピアノ五重奏曲をいつか必ず演奏したい。本当に素晴らしい作品ですが何故演奏される機会が少ないのでしょうか。過小評価されていることが残念です。
クルターグも大好きです。作曲家としての発想がとても面白いと思うからです。自由に音を配置しているように見えますが、実は非常に緻密に書かれており、それゆえ一つ一つの作品の密度が濃いのです。
そして、東欧の作曲家の作品には独特の哀愁がありますね。
嶋田
私もそう思います。ポルムベスクの「望郷のバラーダ」が天満敦子さんが演奏してくださり一躍有名になったのは、その哀愁が日本人の心に染み渡ったのだと思います。エネスクのルーマニア狂詩曲もそのような日本人に通じる感じがします。
ジュニアコンクール審査員をやってみて
嶋田
話は変わりますが、今年の子どものコンクール東京地区予選の審査員をお願いしました。やってみてどのような感想をお持ちになりましたか?
比嘉
実は初めてコンクール審査員の依頼を受けました。ここのコンクールはいろいろな楽器の審査をしなければならず、人数も多かったので大変でしたが、審査の観点から演奏を捉える事でまた違った気づきがあり、とても興味深かったです。
小さなお子さんは演奏分数が少ないので講評を書くのも必死でしたが、良い経験をさせて頂きありがとうございました。
今年はジュニアコンクールでの審査以降、他のコンクールの審査員もさせて頂き、大変勉強になりました。
嶋田
多分他のコンクールとは違っている点がたくさんあるのでしょうね。
比嘉
大人のコンクール(ルーマニア国際音楽コンクール)もそうですが、協会のコンクールは入賞者を長い目で暖かく見守ってくださっていると思います。
現在、全国10ヶ所で地区予選を開催されていますが、増える可能性はあるのですか?
嶋田
今は現在の10ヶ所で開催している各地区予選が独自に運営出来る形に持っていきたいと思っています。昨年始めた長野地区予選、あるいは徳島地区予選、会場を変えた兵庫地区予選などです。その後候補地を決めて行きます。
比嘉さんは沖縄県出身なので、沖縄も候補に入れたいですね。
比嘉
はい。僕は将来、東京だけでなく地元である沖縄にも拠点を置き、様々な面で地元に貢献できたら嬉しいと思っています。
嶋田
各地で逸材の子どもたちがたくさんいるのも知ることが出来ました。現在の開催地に個性溢れる子が集まって来て欲しいです。
比嘉
そうですね。今後が楽しみです。
嶋田
地区予選の審査員は比嘉さんにお願いしたように、「ルーマニア国際音楽コンクール」受賞者にお願いしたいと思っています。受賞者は協会がどのような人材を求めているかを理解してくれているので、その目で子どものコンクール(ルーマニア国際ジュニア音楽コンクール)を審査して欲しいからです。
比嘉
僕もそのお役に立てれば嬉しく思います。嶋田会長の求めるものがコンクールに反映されるコンクールになるといいですね。
今後について
嶋田
ありがとうございます。最後に今後の活動や目指していることをお聞かせください。
比嘉
今の道を極めていくのみです。
そして自分がどこまで出来るか試してみたい気持ちです。
今後、環境が変化したり新しい状況になった時に新たな挑戦が出来るように、常に感覚を磨いていきたいと思います。
その感覚を磨くには、行動をする事も必要ですし、本当に大事なものは何か立ち止まって考える時間も必要です。
先ほどお話ししたエネスクやクルターグの作品をはじめ、様々なレパートリーを温めて、理解を深めるという事も僕にとって大事な事の一つだと思っています。
嶋田
貴重なお話をありがとうございました。今後の活動を期待しております。
沖縄県出身。桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻卒業。同大学大学院修士課程音楽研究科修了。
第12回ルーマニア国際音楽コンクール第2位。第23回おきでんシュガーホール新人演奏会オーディションにて沖縄賞受賞。
ピアノを屋良久美子、平良敏人、岩崎セツ子、川村文雄、大野眞嗣の各氏に、室内楽を藤井一興氏、沼沢淑音の各氏に師事。
現在、演奏活動とともにマスタークラスの講師、コンクール審査や大野眞嗣氏のアシスタントを務めるなど後進の育成にも力を注いでいる。
さくらインターナショナルスクール麻布校ピアノ講師、大野ピアノメソッド認定講師。